経済産業省と特許庁が『デザイン経営』宣言を打ち出したのが2018年。以来、デザインを重要な経営資源として活用し、企業のブランドイメージを構築し、イノベーションを起こすことで企業の競争力を高めるという考え方が徐々に広がっています。
陽子線治療を世界中に普及させる
株式会社ビードットメディカルは、陽子線を使ったがん治療装置を開発している医療機器スタートアップです。従来、高さが12メートル程度あった巨大な陽子線治療装置を約3分の1まで小型化することで、陽子線治療の普及促進を目指します。
代表取締役社長の古川は、千葉大学で物理学を専攻し、そのまま放射線医学総合研究所に入所。日本各地の重粒子線治療装置導入プロジェクトを成功させた後、2017年に6人の仲間とともにビードットメディカルを創業しました。
物理学の博士号を持つ古川は、「物理学と医学の粋を集めた陽子線治療を世の中に役立てたい。陽子線治療が十分に普及すれば、がん患者が仕事を続けながら半休を取って治療を受けるような、QOLの高い治療が当たり前になる日が来るはずだ。」と話します。
古川は装置サイズの問題を解消しようと、既設病院の躯体に収まるサイズまで縮小することを目標に、装置の開発に着手し、従来の3分の1の高さにまで小型化することに成功しました。その開発手法は、ユーザー体験を大前提に商品開発を進める、デザイン経営そのものです。
超小型陽子線がん治療装置のイメージ図
デザインのインパクトを経営に
古川は最初からデザイン経営を意識していたのかというと、そうではありません。「全てはマーケティングであり、使う人にとっての価値の最大化を目指すとこうなった。」と古川は話します。
一方で、古川はデザインの重要性について次のように語っています。「デザインは見たり使ったりする人がいることを前提に考えられるもの。装置開発にあたっても、ユーザーに意識を向けて使い勝手までを含めたデザイン・設計を行うことで、導入先の医療関係者はもちろん、実際に治療を受ける患者が味わう体験価値は高まる。」
さらに、デザイナーの役割について、「大手メーカーの重粒子線プロジェクトに参画した際に目にしたことだが、優れたデザイナーはただ形を求めるだけではなく、見る人や使う人にどんなインパクトを与えたいのかを突き詰めていく。そのようなデザイン思考は企業活動の中でもっと広く活用していい。」と語ります。
古川は会社経営においてデザインを重要な要素と位置付けており、現在60名ほどの会社の中で、経営企画室に3名のデザイナーが在籍しています。彼らに期待されているのはプロダクトのデザインだけではなく、経営計画のストーリー化やブランドの構築など、幅広く活躍しています。
デザインへの投資は惜しまず
古川は「デザインへの投資は、リターンが大きい」とも話します。企画段階からデザインを重要な要素として取り入れるだけで、後々価値が何倍にも膨れ上がり、ユーザー目線を追求することで技術開発の方向性も見定めることができます。「だからデザインへの投資は惜しくない。」古川のデザインに重きを置いた経営スタイルが、ビードットメディカルの価値を高め、さらには医療関係者や患者さまの体験価値を高めていきます。
ビードットメディカルの事業について