開発チームインタビュー
開発チームが解説
自走式*シャトル治療台 Throup®(スループ)
―こだわり設計とデザインで効率化とユーザビリティを追求―
ビードットメディカルは、陽子線を使ったがん治療装置を製造販売している医療機器スタートアップです。従来、高さが12メートル程度あった巨大な陽子線がん治療装置を、約3分の1まで小型化し、陽子線がん治療の普及促進を目指します。
ビードットメディカルの取り組みは、照射装置の小型化のみにとどまりません。治療室の稼働効率(スループット)を良くすることで、より多くの患者さまに陽子線治療を受けていただけるようにと考えたのが、治療時に患者さまに乗っていただく自走式の*シャトル治療台「Throup®(スループ)」です。
開発コンセプトとこだわりのポイントを開発チームが解説します。
*患者さまの搬送には必ず医療スタッフが付き添い、医療スタッフの操作によって発進し、搬送先で所定の位置に固定します。

Throup®のコンセプト
(久保田)従来の治療フローでは、患者さまは治療室内で着替えて治療台に乗り、正しい照射位置に患部が来るように位置合わせ(位置決め)をします。その後、照射が行われ、終わったらまた着替えて退室します。通常はこれらの全てが治療室内で行われますが、本当に治療室内でしかできない作業は、実は照射のところだけです。
照射にかかる時間は、短いものでは1~2分程度ですから、照射だけを治療室で実施し、それ以外を別室で行う治療フローを作ると、装置一台あたりの効率が向上し、より多くの患者さまに治療を受けていただけるようになるはず、というのが基本的な発想です。

(久保田) 陽子線治療に求められる位置決めの精度はコンマ数ミリの世界です。それだけの精度を出すのは決して簡単ではなく、過去にビードットメディカルがある大学病院で実施した調査によると、5回に1回程度やり直しが発生しているという状況が見えました。その難しい位置決めを室外で実施できれば、治療室の占有時間は短縮できるはずです。
問題は位置決めの後、どうやってその位置を維持したまま患者さまを治療室へ運ぶかです。これを解決するために当社が考えたのが、Throup®です。この治療台は、患者さまを乗せて位置決め室と治療室を行き来します。治療室外で位置決めをした後、シームレスに照射へと進めることを目指します。
治療室に到着したThroup®は、1ミリ程度の精度でしっかりと固定されます。その後、アームで天板の位置を微調整することで、サブミリの精度を実現しようとしています。
人間工学に基づき、患者さまの体験を設計する
(蓑原)開発にあたり、まず第一に考慮したのは患者さまの乗り心地です。既存の粒子線施設の治療台に私自身が実際に乗り、動きを体感して設計に反映させています。
人間は三半規管で水平方向の回転加速度を受容し、耳石器で重力方向の直線加速度を感知します。どちらも耳の中にあり、頭の動く加速度を小さくすると人は動きを感じにくいのです。この特性を利用して、治療台や天板を回転させる際に患者さまの頭に近い部分は出来るだけ動かさず、足元から動くように治療台の動きを制御します。
また、急発進や急ブレーキがかかると不快で不安になりますし、患者さまの位置がずれたりします。だからといって、ひたすらゆっくり動かしていると、目指している効率化が出来ません。では、どうするかというと、高層ビルのエレベーターが良い例ですが、あれは実はものすごい速さで昇降しています。しかし、動き始めと止まる直前は速度を落とし、乗っている人が不安を感じないように調整しています。それと同じ考え方を採用して、治療台の発進・停止の加速度を制御するよう工夫します。
関わる人の感情までを考慮したデザイン
(水口)自走式*の治療台を見るのが初めてという人たちにも、安心して使っていただくためには、直感と実際の動作を一致させることが重要になります。
そこで工夫したポイントの一つが、車体の形状です。工場で部品を運ぶ無人搬送車などは四角いものが多いですが、四角い形はスタティック(静的)にも見えます。ですので、車体の両端にラウンド形状を取り入れ、駆動方向を表現し、全体的にも曲線と直線のバランスを考慮することで「安心感」を創りあげています。そうやって、受け手の感情をデザインの力で創造していこうとしています。
また、治療室や操作室などの操作性全体のデザインにあたっては、患者さまの体験はもちろん、技師・病院スタッフの方々の「感情」にもこだわっていきます。操作する人がどのような感情で、その作業にあたるのか。その感情を邪魔せず、最適化されたユーザビリティを実現するため、粒子線治療の臨床経験を持つ開発チームと何度も検証を繰り返しながらデザインしました。
ビードットメディカルの経験や知識・工夫がぎっしり詰まったThroup®を一日も早く、治療に役立てていただける日を楽しみにしています。
医療機器承認番号
販売名:シャトル治療台 Throup スループ 医療機器製造販売届出番号:13B1X10334000001